出典元:夕刊フジ
剛腕の新天地デビューは、やはり予測不能だらけだった。巨人からロッテにトレードとなった沢村拓一投手(32)は移籍初日の8日、日本ハム戦(ZOZOマリン)の6回に3番手で登板。三者連続三振とパーフェクトリリーフで満点デビューを飾った。早朝は川崎市のジャイアンツ球場で古巣に別れを済ませ、ナイターで即デビュー。ユニホームが間に合わず、チームスタッフから借用してのマウンドとなるなどドタバタの“沢村劇場”を振り返る。(片岡将)
【写真】三者三振で雄たけびを上げる沢村。新たな野球人生を踏み出した
「マリーンズのピッチャーは沢村~」。マリンスタジアム名物の谷保広報の美声でコールされると、場内は期待と不安が入り交じった異様な大歓声に包まれた。
移籍即日のデビューで新背番号「57」のユニホームが間に合わず、福嶋明弘打撃投手兼スコアラーから借りてマウンドへ。「106」を背負った右腕が見せた姿は、巨人でストライク1つ取るのに苦労した姿とは別人だった。
最速153キロの直球で簡単に追い込み、140キロ台後半のスプリットを決め球に、圧巻の三連続三振。相手打者には元同僚の大田にビヤヌエバと、舞台設定も出来過ぎの初お目見えだ。
「初めまして。沢村です。(6回に)名前を呼ばれたときの声援は絶対に忘れません。これからはマリーンズのために腕を振っていきます!」
時計の針が午後9時を少し過ぎたころにお立ち台で声を張り上げた右腕。3-2での勝利と、チームの5連勝に大きく貢献した。
長い1日が始まったのは、13時間前の午前8時。ジャイアンツ球場での古巣へのあいさつだった。ブルーのスーツに身を包み、試合を控えた阿部慎之助2軍監督(41)ら元チームメートと別れを惜しんだ。
「たくさんの方に支えてもらって9年半を過ごすことができた。たくさんの愛情を注いでもらった」と感謝。昨季までバッテリーを組んで共闘してきた阿部監督は「やっぱりかわいい後輩ですから。移籍しますけどプロ野球選手であることは変わらない。そこだけは本人にも話はさせてもらいました」とエールを送った。
今季の1軍戦では防御率6・08と散々で、2軍戦でも制球難を露呈していたが、巨人ラスト登板となった6日のイースタン・リーグ、ヤクルト戦(戸田)で変化の兆しをみせていたという。
阿部監督は「何かきっかけをつかんだんじゃないかと思っていた。笑顔で投げていたからね。みけんにしわを寄せて話を聞いているだけでも体に力が入るぞって言っていたくらい」と証言。本当に何かをつかんだとすれば、ロッテは最高のタイミングで沢村を獲得したことになる。
しかし、沢村は感傷に浸っているヒマはない。正午にはロッテとの正式契約と、オンラインでの入団会見が控えていた。午前10時前には「時間ないよ!」と慌ただしく車に乗り込み、直線距離にして50キロ近く離れたZOZOマリンに向かったが、余裕を持って出発したおかげで「予定の30分前には着いていた。さすが巨人の選手は時間に厳しいですね」とロッテ関係者を感心させた。
午後0時45分からの会見では「やるしかないという気持ち。いや、やるしかないというのはおかしいですね。マリーンズの力になりたい。やるだけだという、それだけ」と気合の入った表情。マリンスタジアム特有の強い風については「自分はそんなに器用な方ではない。真っ向から勝負していくしかない」と風を計算に入れずガチンコ勝負を挑む気概を示していた。
そんな新戦力を井口監督は「きょうからベンチ入りメンバーに登録します。6、7回の勝ちパターンで投げてもらいたい」と即1軍登録。最高の結果で応えた沢村は、「風、強えーなって思いましたよ」と登板時には風速12メートルに達していた強風に面食らったが、ある関係者は「この球場はバックネットで風が跳ね返ってマウンドでは逆風。そのせいで落ちる球は落差が出る。フォークが決め球の沢村には合うのかも」と指摘した。
巨人時代の空回りぶりがウソのように、やること成すこと、すべてが上手くいったロッテ初日。新本拠地まで味方につけた。
「まだ1試合。結果を残したとも思っていません。マリーンズに携わってくれているすべての方々に獲って良かったと思ってもらえる努力をしていきます」と沢村。逆風のマウンドから、剛腕の逆襲が始まるのか。