京アニ放火事件から1カ月 府警「異例」の対応 多様、変化する被害者ニーズ(産経新聞)

「今回の事件は極めて重大で、関心も高い。匿名にすると臆測や誤った事実が流れ、亡くなった方の名誉が傷つく。ご要望を聞き取り、報道機関に伝えて実名を伝える。ご遺族にはこのような説明を丁寧に行った」。事件発生から15日後の今月2日、犠牲者の一部の身元を公表した京都府警幹部はこう説明した。

【写真で見る】青葉容疑者の自宅アパートの家宅捜索をする京都府警の捜査官

 35人が死亡、34人が重軽傷を負った京都アニメーション放火殺人事件で、府警は実名公表について遺族らに意見を聞き、了承が得られて葬儀も終えていた10人分のみを発表。取材対応の可否も確認する異例の対応を取った。

 府警は今回、被害者支援班100人に加え、捜査本部からも約40人を被害者対応に投入、心理ケアなども実施している。事件内容の説明では、「遺族にはある程度踏み込んだことを言ってもかまわない」と、容疑者の人物像や容体も説明しているという。

 ただ、残る25人の犠牲者の氏名公表の時期は、現時点でも見通しがたっていない。府警幹部は「遺族配慮と関係方面との調整」と、その理由を説明。一方京アニ側は、一定期間は実名報道を控えるよう、府警と報道機関に要請している。

 犯罪被害者等基本法が施行されて14年。警察や弁護士会など関係機関で支援態勢が構築され、各自治体が支援条例を制定するなど、支援の枠組みは広がってきた。だが、今回の事件で被害者の「窓口」が警察と京アニになっていることには、懸念の声もある。

 平成13年の大教大付属池田小事件で、遺族の依頼を受けて支援に入った常磐(ときわ)大の長井進名誉教授(被害者学)は、「それぞれの被害者には本来、利害関係のない第三者が事件発生直後から中立的に関わることが不可欠。警察と雇用主が一元管理しているような現状では、被害者の主体性、自発性がどう考慮されたかが分からない」と指摘する。

 被害発生直後から、犯罪被害者はさまざまな機関での手続きなどに追われる。ここで支援に入るのは主に警察だが、全国で3番目の民間被害者支援組織として8年に設立された「大阪被害者支援アドボカシーセンター」の楠本節子顧問(73)は「どこかの時点で、専門的訓練を積んだ被害者支援組織などに引き継ぐことも必要では」と話す。被害者のニーズは時間とともに変化し、多岐にわたるためだ。

 同センターでは専門的な研修を受けたスタッフが相談への対応のほか、直接支援活動なども実施。昨年度は延べ1827回の支援活動を行った。直接支援の内容は警察への付き添いなどさまざまだが、楠本顧問は「専門的な知識がなくても、周囲の方がご飯を作り、買い物をしてくれたことが支えになったという方も多くおられる」と話す。

 今回の事件では、報道のあり方も議論になっている。17年のJR福知山線脱線事故で次男の上田昌毅さん=当時(18)=を失った父、弘志さん(65)=神戸市北区=は「将来ある若い世代が事故で亡くなった無念さを世間に知ってもらいたい」と実名報道を許容してきたが、「遺族によって思いや考え方は全く違う。私には息子の知人から気遣いの電話があったが、『罰が当たった』などと理不尽な電話を受けた遺族もいる」と、匿名を望む遺族にも理解を示す。

 メディアに大きく報じられる事件とそうでない事件で「『命の重さが違う』と感じた」と話すのは、少年事件でわが子を殺された遺族でつくる「少年犯罪被害当事者の会」代表の武るり子さん(64)=大阪市西淀川区=だ。23年前、長男の孝和さん=当時(16)=が他校の生徒に因縁をつけられて殺害された事件は、新聞各紙の社会面に小さく載っただけ。当時は少年法改正前で、警察に尋ねても加害者の名前どころか、事件内容さえ教えてくれなかった。

 だが、約半年後に起きた神戸連続児童殺傷事件では「警察も裁判所も異例といわれるほど、精いっぱいの被害者対応をやっていた」。そして、この事件を機に日本の被害者対応は変わった。武さんはこう話す。

 「事実がしっかり報じられることで問題に対する関心が高まり、関係機関が適切に対応しているか、支援がきちんと届いているかを社会全体がチェックすることにつながる。メディアはその監視役的な役割を果たしながら、社会が共有すべき情報を発信してほしい」

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