「強み」を生かし働く(産経新聞)

発達障害のある人の中には、その特性から就労で壁にぶつかり、転退職を繰り返すケースも多い。継続した就労に向け、平成28年施行の改正発達障害者支援法は自治体だけでなく企業側にも必要な支援に努めるよう求めている。就労支援施設などを通じて本人と企業側の両者が障害への理解を深め、安定した雇用を実現すれば、発達障害者は戦力として働くことができる。

■理解のある職場環境

 NTT西日本グループの特例子会社、NTT西日本ルセント(大阪市都島区)には、4月現在で84人の発達障害者が勤務する。その一人、川西康介さん(40)=仮名=は4年前に発達障害の一つ「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」と診断され、職業訓練校などを経て同社に就職した。

 同社は主にグループ内から紙文書の電子化やアンケート集計などの業務を受託している。一昨年、約180万件ものデータから複数の個人情報を削除する仕事が舞い込んできた際、川西さんは該当する情報を一度に消すシステムを開発。数カ月かかるという発注側の想定に対し、わずか1カ月足らずで納品してみせた。このシステムは後に、NTT西日本の社長表彰を受賞することになった。

 川西さんはパソコンの扱いが得意だったわけではなく、職業訓練校でエクセルなどの使い方を一通り学んだ程度だ。だが川西さんをはじめ、ルセントの発達障害のある従業員は自主的に勉強してスキルを高めている。その原動力は「作業の効率化の追求」にあるという。

 「健常者の僕らは従来のやり方を踏襲し、大変な作業も気合や根性で乗り切ろうとしがち」と話すのは、経営企画部長の神谷(かみや)和豊さん。だが発達障害のある従業員は聴覚過敏や過剰集中などで疲れやすいため、「いかにミスなく効率的にするかを常に考えている」。同社で効率化された作業工程がグループ側にフィードバックされるケースは少なくないという。

 川西さんにはアルバイトを転々としていた時期があった。そこでは「健常者に基準があり、指示を理解できないことが多かった」。作業手順を間違えては怒られ、「自分はクズだ」と思い詰めた。だが今は違う。「理解と配慮のある環境で、仕事もやっていけるなと感じる。ようやく絶望から抜け出せそうです」。

■はまった「采配」

 障害者雇用では希望する職種がないからと、一般雇用の門をたたいた人もいる。「大衆酒場ほし寅」(大阪市中央区)で働く山中英良(ひでよし)さん(37)。昨年秋から同店で人気のプリン作りを任されている。

 山中さんには、複数の作業を並行できない、複数の指示を記憶できないといった発達障害の特性がある。就労支援施設に通所後、調理師免許を生かしたいと飲食店への就職を目指した。

 「ほし寅」などの飲食店を営む「MAJIMA」に就職したのは昨年夏。真島充友(みつとも)社長(43)が支援施設から山中さんの特性について説明を受けた上で、その真面目な人柄にひかれ、採用を決めた。

 だが最初はうまくいかなかった。調理場の仕事は臨機応変な対応が求められる。忙しくなるほど混乱して体が動かなくなり、他のスタッフへの負担も大きくなった。「一つの仕事に集中させようか」。店長の中山智映子(ちえこ)さん(43)がそう考えていたとき、プリン作りを担当していた社員が産休に入ることに。「味を守れる一番きっちりした性格の人に」と、山中さんを後任に抜擢(ばってき)した。

 この采配がはまった。一つのことに集中力を発揮する。正確に計量して同じ物を作り続けることが苦でない。山中さんの強みが生かされ、真島社長も「前より味が安定した」と信頼を寄せる。毎朝、黙々とプリンを作る山中さんは「ちょっとした加減で味や食感が変わる。研究しがいがあります」。この仕事と出合い、いつか自分の店を持つことが夢になった。

 発達障害者支援法とは、発達障害への理解と支援の促進などを目的に、平成16年に超党派の議員立法によって成立。28年施行の改正法では障害の早期発見から就労に至るまでの切れ目のない支援が重要だとして、事業主に対しては適切な雇用機会の確保に加え、個々の特性に応じた適正な対応をすることで雇用の安定を図るよう求めている。

(この連載は藤井沙織、梶原紀尚が担当しました)

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