出典元:現代ビジネス
地球惑星科学を専攻し、東京大学大学院博士課程を修了した異色の経歴を持つ小説家・伊与原新さん。最新作『八月の銀の雪』は、天文、気象、生物などがテーマに、科学のエッセンスが登場人物の傷ついた心を優しく包み込む物語です。本書収録の気象をテーマにした1編「十万年の西風」を5日連続掲載で公開します。
「明日朝、地震アル」と
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前回はこちら → 【小説】日付を変えろ…「原子炉の配管の歪み」隠ぺいを迫る上司の驚きの一言
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【前回のあらすじ】
海を眺めながら滝口と話していた辰朗は、勤めていた原発の保守・点検会社を退職したときのことを思い出していた。
退職のきっかけは、地震によって発生した配管の歪みを隠ぺいする「報告書の調整」に、加担させられそうになったことだった。内部告発も考えた辰朗だったが、同僚や部下、その家族の顔が頭をよぎった末、黙って退職願を出すことを選ぶ。
人間はどうして空とか風とか、のどかで平和なことだけに好奇心をむけていられないのかと辰朗が漏らすと、「風も、平和に使われるとは限らない」と滝口は語り始めた。