アメリカが直面している「文化戦争による分断」の現在地(現代ビジネス)

出典元:現代ビジネス

はたして「米国の分断」は改善するのだろうか。

 すこし長い目で2020年の大統領選をみようとすれば、そう問わざるをえないだろう。ふりかえってみれば、2008年にバラク・オバマが挑んだ問題も「米国の分断」であった。繰り返し唱えられた「Yes!  We Can!」も、「自分たちは分断や差別を乗り越えられる!」という自信回復のための合言葉であったし、2008年の大統領選は「実際に、黒人初の大統領を実現できるのか?」という試金石とされた。

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 ところが、その後の民主党には、オバマ候補が唱えたようなスローガンや理念は見当たらない。今回、大統領候補となったジョン・バイデンは経験豊かな政界の重鎮であるが、選出されたのはほとんど「反トランプで中道」というほどの理由であり、選挙戦が進むにつれ党内の諸勢力に配慮して左派への傾斜を強めていった。

 副大統領候補となったカマラ・ハリスは、「女性で黒人」という特徴をもち、オバマ大統領実現の延長線上に位置づけられるが、2008年のような「試金石」までにはなっていない。民主党にあっても、米国の分断は難題であると言わざるをえないだろう。

 米国の分断は、基本的に「リベラル vs.保守」という枠組みのもと、「民主党 vs.共和党」「大きな政府 vs.小さな政府」といったように政治的、経済的次元で論じられることが多い。2016 年の大統領選挙からは、下層中産階級がトランプを支持することで「トランプ派vs.反トランプ派」という様相を呈するようになり、分断が深まったと考えられている。

 ただ、そうした米国の分断には政治や経済の次元だけでなく、より深い文化の次元の断層もある。「文化戦争(Culture War)」と呼ばれる対立である。米国では植民地時代から価値観や世界観をめぐる争いが繰り返されてきたが、とくに 1960年代以降は、エスニシティやセクシュアリティの多様性が増したことにより新たな局面に入っていった。

 1970年代からは人工妊娠中絶や同性愛、公立学校における祈り、移民、銃規制などをめぐり、大きく二つの陣営に分かれて対立するようになったのである。そうした対立は、1980年代末頃からいっそう深まっていき、1991 年には宗教社会学者であるジェームズ・ハンターが、それを「文化戦争」と名づけたのであった。

 この概念が宗教社会学者によって提唱されたことからも分かるように、文化戦争の基底には宗教的次元が横たわっている。実際、1976年の大統領選以降、「宗教」は大きな影響力を発揮するようになった。しかし、その動向は複雑で、混乱した報道も散見される。2016年の大統領選でも「宗教保守」がトランプを支持し、大番狂わせの原因の一つとなった。その後も「宗教保守」は、トランプ政権の岩盤支持層と言われている。

 深層にある文化戦争の分断を見きわめ、実状を理解するのは容易ではない。しかしそれは、2020年の大統領選においてもたしかに作用しており、「見えない分断」を生じさせている。ここでは、「黒人差別抗議デモ」を例にとることによって、文化戦争による「見えない分断」を浮かび上がらせてみたい。

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