出典元:産経新聞
昨年10月に列島を襲った台風19号では、利根川中流域で住民と行政の連携による広域避難が初めて行われた。避難計画が専門の片田敏孝・東京大院特任教授は「政府が進める(河川)流域防災の手本になりうる」と評価する。注目すべきポイントについて、片田教授に聞いた。(編集委員 北村理)
【図で見る】台風の接近でやるべきこと
台風19号の際、過去最高水位を記録した利根川の中流域では約4万人が浸水しない場所へ広域避難した。
当時、流域各市町の首長に対し、利根川氾濫の見通しや水位など情報を提供した三橋さゆり・前利根川上流河川事務所長は「氾濫の危険性は分かっていたものの、水位上昇の速さは想定の4倍だった」という。
広域避難開始を市町と協議しようとしたタイミングで暴風雨となったため、協議のないまま、各市町の判断で広域避難が開始された。三橋さんは「それでも、市町や住民は落ち着いて広域にわたる避難を行っていた」と振り返る。
台風19号の経験をへて、利根川中流域の市町は6月、気象庁、河川事務所などと構成する「利根川中流域4県境広域避難協議会」で、新たな避難判断基準などをまとめた。
新基準では、広域避難の検討を始めるタイミングについて、台風19号以前は「避難判断水位到達の15時間前」だったのを「72~24時間前」と大幅に前倒し。また、水位の上昇をみながら避難のタイミングを判断するのをやめ、72~24時間前に避難の検討を始めた段階から、3段階にわたって順次住民に避難の呼びかけることで、渋滞を回避しスムーズな避難を目指すこととした。
片田教授はこうした取り組みを、「水害の推移は人間の予測を超えるのが通例だ。避難の判断に余裕をもたせることが早めの安全な避難に結び付く」と評価する。
避難を成功させる基本条件について、片田教授は、住民が地域の危険性を理解する▽行政が避難支援の限界を明示し、早めの避難への自助努力を呼びかける▽自助努力が難しい高齢者などへは行政が避難手段を用意する-を挙げる。
その上で「全国で展開されている流域防災の避難対策ではこれらの基本条件への対応が不十分。それでは、いざというときに住民は動けない」と指摘。利根川中流域については「住民が避難への動機を十分備えており、行政が把握している4万人を大きく超える自主避難者があった。他地域でも手本にするべきだ」と強調した。