出典元:現代ビジネス
カービー・マリエールはミレニアル世代(1980年代~2000年代初頭生まれの人々)のシンガーソングライターだ。今年6月、彼女の顔が全米に知られるようになった。彼女が動画SNS「TikTok」に投稿したメッセージ動画によってである。
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彼女が投稿したのは「人種差別主義者でない朝食の作り方」と題された約30秒のビデオ。ブライトイエローのタイトでセクシーなショート・ジャンプスーツに身を包んだ彼女が冷蔵庫を開けると、そこにパンケーキの箱がある。パッケージには黒人女性のイラストが描かれている。アメリカの家庭の定番 「ジェミマおばさんのパンケーキ」だ。
「ジェミマおばさん!?」
カービーが声を張り上げる。
「みんな、ジェミマって名前が南部プランテーションの奴隷の女性の名前だったって知ってた?」
「それで、パンケーキを売り出した白人男性が130年前にこの(商品の)ネーミングを思いついたきっかけは、ミンストレルショー(かつて黒人に扮して顔を黒く塗った白人俳優が、面白おかしく演じていた劇。現在は黒人への侮辱的人種差別的なエンタメと批判され、“ブラックフェース”の典型としても知られる)だったのよ。
前述の通り、時は6月半ば、ちょうどブラックライブスマター運動が白熱し始めた頃だ。この投稿ビデオは瞬時にバイラル化(要するに、ウイルスのように拡散すること)し、わずか1日でこのパンケーキの販売元であるペプシコ社は、ネーミングとパッケージデザインの変更を余儀なくされた。
ソーシャルメディア時代とはいえこのスピードには多くのアメリカ人が驚いた。拡散の中心にいたのは数百万人の若者たち――特に「Z世代」と呼ばれる10代後半~23歳くらいまでの若者だと考えられる。なぜなら、TikTokはインスタに続き、Z世代に最も愛されているソーシャルメディアだからだ。いまこのメディアで、BLMの影響を受け政治的なポストが激増していることは見逃せない現象だ。
アメリカのZ世代は政治化している、しかもリベラル化しているという話を聞いたことがあるかもしれないが、カービーの例は、まさにそれを内外にはっきり見せつけた出来事だ。実際のところZ世代はどのように「リベラル化」しているのか。本記事ではその実態と背景をお伝えしたい。
と、ここで一応、アメリカの文脈での「リベラル」と「保守」を簡単に定義しておこう。定義をめぐっては様々な論争があるが、以下では、リベラルとは黒人やLGBTQといったマイノリティの権利の尊重や経済的弱者への所得の再分配を重視し、不平等を政府の力で解消しようとする立場、一方の保守は、そうした不平等の解消に政府が乗り出してくることを嫌う立場だという考え方を採用する。