出典元:産経新聞
県が、県産農畜産物の成分分析などを行い、その特長をデータの力で訴えるPR戦略を加速する。「甘い」「おいしい」とアピールするだけでなく、その理由や優位性を科学的なデータで訴求する全国でも珍しい取り組みだ。担い手不足や貿易自由化などにより事業環境が厳しさを増す農畜産業。データを武器としたブランド育成は起死回生の一策となるか。
◆「裏付け」で説得力
「甘味抜群、健康機能性十分!」。山本一太知事は今年2月の会見で、県育成品種のイチゴ「やよいひめ」の分析結果を示し、こう強調した。
分析を手掛けたのは知事肝煎りの「Gアナライズ&PRチーム」。やよいひめと2大ブランド「とちおとめ」「あまおう」の3品種について、甘味や酸味など8項目を数値化して比較した結果、やよいひめが7項目で上回った。さらに総ポリフェノールなど健康機能成分もほぼ横一線だった。
「ライバル品種に引けを取らない裏付けがあれば売り込みにも説得力が増す」。県担当者の言葉は熱を帯びる。
今月3日には県産トウモロコシの分析結果も公表し、「北海道産などに比べ甘味が強い」とのデータを示した。トウモロコシは収穫後に甘味が急低下するという性質もグラフで明示し、「群馬産は朝採りを、その日のうちに首都圏に届けられる」と利点を強調した。
やよいひめもトウモロコシも、県はデータを武器に、販売力を強化する構えだ。
◆特別な努力せず…
もともと農畜産業が盛んな同県。県内の野菜産出額は全国6位の983億円(平成30年)だ。キャベツ、キュウリなど16品目の出荷量は全国5本の指に入り、養豚の飼育頭数も4位につける。巨大な消費地である首都圏に地理的に近く、「手頃な価格の農畜産物の供給基地の役割を担い、発展してきた」(県担当者)。
だが、裏を返せば「群馬の農業は特別な努力をせずとも維持できてきた」との指摘につながる。安定供給はそれ自体がブランドとなるが、「もう一度買って食べたい」と消費者の心を動かす全国区のブランドは育ったのか。県の取り組みの背景にはこうした強烈な問題意識がある。
もう一つの動機は「攻め」だ。農畜産業を取り巻く環境は厳しさを増し、特に担い手不足は深刻。県の就農人口は平成に入ってからの約四半世紀で実に6割減の4万4千人(27年)となった。
日米貿易協定と環太平洋戦略的経済連携協定(TPP11)に伴う県の農業産出額は最大49億9千万円減と試算され、貿易自由化の逆風にも立ち向かわねばならない。
高付加価値のブランド産品が軌道に乗れば農家の収益増につながる。逆境の中での生き残り戦略でもあるわけだ。
海外展開も視野
国内市場の縮小が見込まれる中、県は海外市場にも目を向ける。輸出拡大を図る政府の「攻めの農業」戦略に沿って、データに基づくブランド産品を輸出の強力な武器としたい考えだ。
先の会見で山本知事は「県庁32階の動画・放送スタジオから動画を使って県産品の魅力を外国語で発信していく」と腹案を披露した。その視線は、海外の店頭に「GUNMA」のブランドを冠した農畜産品が所狭しと並ぶ日を見据えているに違いない。
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■Gアナライズ&PRチームの分析対象と特長
やよいひめ 比較的甘味が強く、酸味が弱い。1粒平均20グラムと大粒
豚肉 オレイン酸・リノール酸比率が高く、さっぱりした飽きない味
トウモロコシ 北海道産を上回る甘味。採りたてを首都圏に届けやすい立地
※県の資料を基に作成
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【用語解説】Gアナライズ&PRチーム
群馬県の山本一太知事の指示で令和元年に発足したプロジェクトチーム。農政、産業経済、総務各部と県産業技術センターに加え、群馬大教授ら16人で構成する。県産農畜産物の特長を成分分析で割り出し、データに基づくブランド構築や品種改良を行う。海外輸出も視野に販売力を高め、生産振興に役立てる。これまでにイチゴ、豚肉、トウモロコシについて分析を実施。次はリンゴに取り組む計画。
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【記者の独り言】タイ・バンコクの日系百貨店では、約10粒入りの日本のブランドイチゴが1パック1000バーツ(約3500円)で売れていくそうだ。海外では和牛の「神戸牛」も定評があり、いずれも味覚に裏打ちされた高いブランド力が鍵となっている。ただ、ブランドは長い年月と消費者の評価によって築かれ不動のものとなる。データで負けないと証明したことはその第一歩に過ぎない。着眼点の面白さを生かし、さらなる地道な取り組みが欠かせない。(柳原一哉)