出典元:日経ビジネス
7月の外国為替市場では、ドルが軟調に推移する場面が目立った。対円では104円台をつけるところまでにとどまったものの、対ユーロなど他の主要通貨に対しては下落幅の大きさがより目立っていた。
【写真】やはりドルは替えの効かない基軸通貨
そうした中で久しぶりに市場の内外でささやかれ、電子メディアの記事などでも散見されたのが、「ドル崩落(大暴落)説」である。
●金史上最高値の背景は
日本経済新聞は8月2日の朝刊に「ドル、10年ぶり下落率 7月4%超、米景気懸念 復興基金受けユーロに 金は最高値2000ドル台」と題した記事を掲載した。米インターコンチネンタル取引所(ICE)算出のドル指数が2018年5月以来の低水準になり、7月の月間下落率は前月末比4%に達して10年9月(5.4%)以来の大きさになったとしつつ、このドル安局面の背景を整理した記事である。
ただし、ドルが「崩落」に向かうというような扇情的な記述は見当たらず、市場の状況を冷静に伝えていた。
この記事は、7月のドル安進行の要因を大きく2つに整理していた。①米国の景気低迷が長引く懸念(4~6月期の成長率が過去最大の落ち込み、新型コロナウイルス新規感染者数の欧州と比べた場合の多さ、米議会における追加経済対策の成立の遅れ)、②ドルの実質金利(この記事では米10年物インフレ連動債の利回りを参照していると推測される)がマイナスになったこと(7月末にはマイナス1%になって過去最低水準を更新)である。
そして、国の信用力に依存せず、ドル下落時には代替資産として買われやすい金が1トロイオンス=2000ドルを突破して史上最高値を更新した背景には、「各国中銀がマネーの供給量を増やし、財政赤字も膨らんでおり通貨の信認が揺らぎかねないとの懸念がある」と説明した。
マーケットのムード(と言うよりもドル売りの理屈付け)をうまく説明した記事なのだが、ふだんマーケットとは縁遠い(雰囲気に流されることの少ない)読者は、いくつもの素朴な疑問を抱いたのではないか。
まず、上記①米国の景気低迷が長引く懸念である。景気低迷長期化の懸念は、米国に限った話ではなく、ユーロ圏でも日本でも、大枠としては同じなのではないか。
国際通貨基金(IMF)などの国際機関が出している世界経済見通しでは、米国に限らずどの国・地域でも、新型コロナウイルスがもたらした今回の新たなタイプの危機によって、今年の経済成長率は大きく落ち込む見通しである。そしてその後についても、感染第2波・第3波によって景気回復の動きが頓挫してしまうリスクがあり、不確実性は極めて高い。